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【PRIME PERSON】多様性こそ強み!香川大学改革の決め手 - 香川大学 学長 一井 眞比古さん

2004年、国立大学が法人化された。大学間の競争を促して教育・研究を活性化させるためだ。大学を支える国の交付金も、成果主義で配分されることになった。

地方大学は衰退するのか・・・・・・その衝撃の中で05年、一井眞比古さん(64)は学長になった。「生き残る大学になろう」と、学部の壁を越えて研究成果を活かす仕組みづくりに取り組み、瀬戸内海研究の拠点となる「瀬戸内圏研究センター」を立ち上げた。

09年、2期目の学長選考会議で再選された一井さんに、改革を進めることへの反対も多かった。
自分と同じ意見はいらない・・・・・・しかし魅力ある大学にするために、やるべきことをみんなでやろう。学長2期目の一井さんの決意だ。

※(学長選考会議)
国立大学法人法で定められた、学長を選考するための組織。学長が任命した学外委員(6人)と学内委員(8人)で構成されている。

運営交付金が減る

18歳人口が減少している一方で、4年制大学が年々増えている。1990年に比べて、約1.4倍(2009年12月現在756校)にもなった。国の中央教育審議会の答申「わが国の高等教育の将来像」によると、14年には、大学志願者数60.4万人、入学定員65万人、入学者数60.4万人と試算され、定員割れが予測される状況だ。

大学を支える国の運営交付金は、使い方こそ自由になったが、香川大学では毎年0.8%ずつ減額されて、5年間で約4億円減った。行政刷新会議で「事業仕分け」され、予算次第ではさらに減らされる可能性もある。

「このままでは、地域の知の拠点としての香川大学は疲弊する」と、改革に取り組む一井さんの再選に、なぜ教職員から批判が多かったのか? 一井さんは笑いながら答えた。
「改革は既得権の崩壊につながりますから、必ず反対は出ます」。口調は冷静で客観的だ。

構想の具体化

意識改革は難しい、時間もかかる。そこで、学長になって半年後、一井さんはまず「大学の将来構想」を考えるための検討委員会を立ち上げた。学外の有識者にも入ってもらい、将来計画の基になる香川大学の「理念」も含め、1年かけて議論した。

その結果が三つの構想にまとまった。

「柔軟な教育研究体制の構築」

学部の壁を取り払い、専門的な教育・研究機能が十分に発揮できる体制を作る。

「教養学部の設置」

科学の高度化に対応して、4年間で実践力豊かな学士力を養成する。

「人文社会系の大学院博士課程の設置」

博士課程がない人文社会系の教育力、研究力を向上させる。

「私の構想に必ずしも全員が賛成ではなかった。現状を変える必要がないという人もいました。学外から見ると改革のスピードが遅いと思われますが、みんなで夜遅くまで議論して、意識が変わってきたこと自体が成果です」

着手から4年、改革はようやく具体化した。「柔軟な教育研究体制」は来年4月に構築し、「教養学部」は5月に文部科学省に申請する予定。「大学院博士課程」は文部科学省と協議中だ。

大学設置基準の大幅な緩和で4年制私学が増え、進学率は過去最高。この20年でおよそ倍になった。

法人化で変わった

法人化は「経営責任」を香川大学に突きつけた。国立大学の公務員にとって”民営化“に等しい劇的変化だった。学長、理事、副学長で構成する役員会が意思決定機関となった。最高の決定権と責任が学長に集中した。

「新しく出来た経営協議会は審議機関ですが、委員の半数を学外の有識者が占め、意思決定に大きな影響力を持っています」。第三者の経営関与も”法人化“による決定的な変化の一つだ。

以前は学部長等で構成する評議会が国立大学の意思決定機関だった。教員が反対すると、学長は何もできなかった。

「この評議会が法人化で審議機関になりました。意見は聞きますが、決定するのは役員会です。教員に決定権が無くなったわけですから、先生方が戸惑うのも当然です」。教職員の戸惑いと経営責任の間で経験したディレンマが、気配りからうかがえる。

大学の強み

「民間会社の人から、大学は組織の体をなしてないと言われることがあります」。会社なら、誰かに言えば必ずトップに通じる。ところが大学の組織は通じないと指摘されたという。

「大学のよいところは、教員個人の発想に基づく自由な研究ができることです。それこそが大学の多様性であって、教員が独自で、自由に動けるのが強みです。法人化しても利益を求める会社のような効率や体質は、長期的に大学にプラスになるとは思いません」。教育者であり研究者でもある一井さんの信念だ。声に力がこもった。

多様性で生き残る

一井さんは01年、農学部長に選ばれたとき、「私と同じ意見の人は必要ありません、私がいますから。私と違う視点の人が必要です」と宣言した。

「生物が進化するには、遺伝的多様性が最大の武器です。これがなくなったら集団は必ず消滅します。個体数が少なくなった種は、遺伝的多様性がなくなって、いずれ絶滅します」。人間社会も同じだ。学長になった今も、この考えは揺るがず、変わらない。

「挿し木や株分けによる繁殖は遺伝的に同じ植物をつくる技術ですが、そこから生まれた集団には遺伝的多様性は全くありません。気温などの環境が大きく変わるだけでみんな枯れます」。遺伝的多様性は、環境変化に対応できる決め手なのだ。

「大学の環境も大きく変わりました。生き残るために、いかに人的な多様性を確保するか、それが大切です。見方によれば無駄といわれる多様性がないと、大学でもないし、生き残ることもできません」。一井さんは、生物進化の最大の武器「多様性」が、香川大学改革の決め手だと確信している。

大失敗

「海外から、共同研究の問い合わせがあるのは、研究者としての私の能力が欲しいわけではありません。私が持っている実験材料が欲しいんです。それは、私が植物の研究に強い武器となる世界に一つしかない突然変異体をたくさん持っていたからです」。大学経営について明快に答えていた一井さんの声が、ちょっぴり低くなった。

実験材料を枯らしてしまったことがある。「ある程度回復しましたが、実験材料は、時間をかけて突然変異で作り出したものですから、研究者にとって貴重な財産なんです。時には、研究者より、ね・・・・・・」

07年12月に品種登録され、08年から県内各地で本格的な栽培が始まった黒大豆「香川黒1号」は、一井さんが県と農協からの依頼で開発した香川県のオリジナルブランドで、粒が大きく品質が良いのが特長だ。

研究成果を質問して、やっと聞き出した答えだ。謙虚な性格だとわかる。

一井 眞比古

一井 眞比古
  • 1945年 兵庫県川西市生まれ
  • 1970年 京都大学 修士課程修了
  • 1988年 香川大学 農学部教授
  • 2001年 香川大学 農学部長
  • 2005年 香川大学 学長
  • 2009年 香川大学 学長再任
  • 現在に至る

国立大学法人 香川大学

所在地
高松市幸町1-1
TEL 087-832-1027/FAX 087-832-1115
E-mail soumkot@jim.ao.kagawa-u.ac.jp
http://www.kagawa-u.ac.jp
代表者 学長 一井 眞比古
学部・研究科 6学部8研究科(教育、法、経済、医、工、農の6学部並びにそれらの6研究科と連合法務研究科、地域マネジメント研究科)
役職員数 1776人(2009年5月1日現在)
学生数 学部 5713人
大学院 817人(2009年5月1日現在)
財務状況 2009年度収支予算 29,826,398千円

沿革

  • 1949年 香川師範学校・香川青年師範学校を母体とした学芸学部及び高松経済専門学校を
    母体とした経済学部の2学部をもって発足
  • 1955年 香川県立農科大学を国に移管し、農学部を設置
  • 1966年 学芸部を教育学部に改称
  • 1978年 香川医科大学開学
  • 1981年 法学部を設置
  • 1983年 香川医科大学医学部付属病院を設置
  • 1996年 香川医科大学医学部看護学科を設置
  • 1997年 工学部を設置
  • 2003年 旧香川大学と旧香川医科大学が統合し新しい香川大学開学
  • 2004年 国立大学法人香川大学発足
    工学研究科(博士課程)を設置
    地域マネジメント研究科を設置
    香川大学・愛媛大学連合法務研究科を設置

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